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製品関連2023/10/20
【インタビュー記事】グルカゴン研究について - 北村忠弘教授
Glucagon interview 今年はグルカゴン発見100周年の記念すべき年に当たります。
グルカゴンはインスリンの拮抗ホルモンとして作用し、血糖調節において重要な役割を果たしていることが広く知られてきました。しかし、血糖降下作用を持つインスリンが盛んに研究されてきたのに比べると、グルカゴン研究の報告数は少なく、取り残されてきた印象があります。
そこでグルカゴン研究においてトップランナーである、群馬大学生体調節研究所の北村忠弘教授にお越し頂き、グルカゴン研究における現状と課題、そして今後の展望についてお伺いしました。

 

Glucagon interview 北村先生北村忠弘 教授

群馬大学 生体調節研究所
代謝シグナル研究展開センター
代謝シグナル解析分野 教授

略歴
1989年 神戸大学医学部医学科卒業
1989年 神戸大学医学部第2内科研修医
1990年 兵庫県立加古川病院内科研修医
1992年 神戸大学大学院医学系研究科(内科学)
1996年 神戸大学医学部第2内科ポスドク
1999年 米国NIH日本学術振興会海外特別研究員
2000年 米国コロンビア大学糖尿病センターポスドク
2005年 米国コロンビア大学医学部Assistant Professor
2006年 群馬大学生体調節研究所教授
2009年 群馬大学代謝シグナル研究展開センター長兼任
2013年 群馬大学生活習慣病解析センター長兼任

   

グルカゴン研究の関心度


――糖尿病研究においてグルカゴンへの関心が高まっていますが、その背景には何があるのでしょうか。

大きな要因として二つ考えられます。

一つ目は、DPP-4阻害剤やGLP-1受動体作動薬といったインクレチン関連の薬が臨床応用されたことです。GLP-1による血糖降下作用において、「グルカゴン分泌抑制」が「インスリン分泌増強」と同程度に強く影響しているということが示されました。

薬イメージ図二つ目に、同時期に行われた遺伝子改変マウスを用いた基礎研究において、重要な発見がありました。α細胞ノックアウトマウスやグルカゴン受容体ノックアウトマウスに、ストレプトゾトシンを投与してβ細胞を破壊しても、血糖値はほとんど上がらないことが報告されました。グルカゴン作用がないとインスリン欠乏による血糖上昇が起こらなかったことから、Ungerらは、グルカゴンの分泌異常が糖尿病の主たる要因であるという「グルカゴン中心説」を提唱しました。
これらの発見により、糖代謝研究においてグルカゴンに再び注目が集まるようになりました。
 

グルカゴン測定の問題点


――すでに多くのグルカゴン測定キットが販売されていますが、この度新たにELISAを開発することになった経緯について教えてください。

グルカゴンを測定する方法は、競合法ラジオイムノアッセイ(RIA)法やサンドイッチELISA、それから質量分析装置(LC-MS/MS)など、いくつか存在します。

Glucagonプロセッシング図グルカゴンはプログルカゴンのプロセッシングにより膵α細胞から分泌されますが、生体内には同じプログルカゴン由来の様々なペプチドが存在しています。これらグルカゴンと共通配列を有するオキシントモデュリングリセンチンなどのペプチドに対して、抗体が交叉反応を起こしてしまうことがグルカゴン測定を困難なものにしてきました。

最初に開発された1抗体のRIA法は、これらのペプチドに対して多くの交差反応を起こすことが分かりました。そこで、より特異性の高い測定系が求められるようになり、N端認識抗体とC端認識抗体の2抗体を用いたサンドイッチELISAが登場し、1抗体RIAによる測定から置き換わりつつあります。なおLC-MS/MSによる測定方法は正確にグルカゴンを測定することは可能ですが、測定時間とコストの問題により、臨床検査には応用できていません。

サンドイッチELISAの登場によりグルカゴン測定の精度は大きく向上し、RIA法では観察できなかった2型糖尿病患者のグルカゴン分泌異常を捉えることが可能となりました。しかし、膵切除胃スリーブ状切除などグリセンチンが高値となる症例では、ELISA値とLC-MS/MS測定値に大きな乖離が見られ、臨床検査としてグルカゴン測定を行うためには、既存のELISAキットの特異性が十分ではないということが分かってきました。そこでさらに特異性の高いグルカゴンELISAの開発が必要と考えました。
 

新しいグルカゴンELISAの登場


――新たに開発したグルカゴンELISAの特長について詳しく教えてください。

Glucagon交差ELISAの特異性は抗体の性能に大きく依存します。そこで、我々はグルカゴンのC端とN端を認識する新たなモノクローナル抗体をそれぞれ、グルカゴンノックアウトマウスとラットから複数樹立しました。その後、先述したLC-MS/MSによる測定値を答えとして、得られた複数のクローンの中から特異性に優れた組合せを選択しました。

また、糖負荷後の血中グルカゴン濃度は非常に低値になることから、糖負荷によるグルカゴン動態を観察するには1pmol/Lまでの測定範囲が必要となります。新たに開発したELISAは類縁ペプチドに対する交叉性は極めて小さく、血中0.62pmol/Lまで測定が可能です。血中グルカゴン測定において十分な特異性と感度を持つELISAを構築することができたと考えています。
 

グルカゴン測定の重要性


――臨床現場において、グルカゴンを正確に測定する重要性について教えてください。

Glucagonキット先述した通り、胃切除や膵切除によりグリセンチン高値となりますが、一般の糖尿病患者さんはこのような手術は受けていません。しかし、最近我々が行った臨床研究では、耐糖能異常が疑われた患者の約3割でグリセンチン高値が観察されています。したがって、2型糖尿病患者の中でも一定数はグリセンチン高値となる症例が含まれる可能性があります。すべての患者の血中グルカゴン濃度を正確に評価するためには、グリセンチンとは交差反応をせず、正確にグルカゴンを測定できるELISAが不可欠と考えています。
 

グルカゴン測定の展望


――今後のグルカゴン測定における展望についてお聞かせください。

Glucagon interview 北村先生展望これまで血中グルカゴン濃度の測定系の問題により、正しいデータが得られず、研究結果を正しく評価できない状況が続いてきました。糖尿病の血糖コントロールに及ぼすグルカゴンの影響を正しく理解するためには、正確なグルカゴン測定系を用いて、数多くの臨床研究を進め、グルカゴン分泌機構についての知見を蓄積していく必要があります。

健常者と2型糖尿病患者の間では、グルカゴンについて3つの有意差があることが分かっています。1つ目は空腹時の血中グルカゴン濃度が健常者に比べて2型糖尿病患者の方が高値であること、2つ目は糖負荷後30分の血中グルカゴン濃度が健常者では低下しますが、2型糖尿病患者では低下しないこと、3つ目は食事負荷後30分の血中グルカゴン濃度の上昇が、2型糖尿病患者の方が高値であることです。さらに、食事前後の血中グルカゴン濃度差は血糖値や耐糖能と相関する一方で、インスリン抵抗性指標やインスリン分泌指標との相関は見られず、2型糖尿病患者におけるグルカゴン分泌異常が、インスリン抵抗性やインスリン分泌異常とは独立した病態であることも分かってきました。つまり、グルカゴンの測定値がインスリン指標とは独立した新たな病態診断指標になる可能性があります。今後、インスリン指標にグルカゴン指標を加えて病態診断をすることで、個々の患者の治療選択につながり、将来の個別化医療に貢献することが期待されます。

従って、血中グルカゴン濃度を正確に測定できることは非常に重要であり、この度、高性能なグルカゴン測定ELISAを構築できたことは、今後のグルカゴンの臨床応用において、とても大きな一歩であると考えています。
 

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